ビロードのうさぎ
マージェリィ・w・ビアンコ 原作
酒井駒子 絵・抄訳
ブロンズ新社
ほんとうのもの
我が家の本棚の真ん中に、
ピンク色のヒョウのぬいぐるみが
座っている。
毛の色は褪せ、ひげは縮れ、
黒い瞳は何度もペンで塗り直した。
ピンクちゃんと名付けられた
ボロボロのヒョウが、
大切な絵本の隣に座っているのには、
理由がある。
酒井駒子さんの美しい絵で甦った名作『ビロードのうさぎ』。
ぼうやのもとにやってきた
ビロード生地のうさぎは、
子ども部屋に魔法があると知る。
心から大事に思われたおもちゃは、
ほんとうのものになれるという魔法だ。
ほんものの動くうさぎに憧れながら、
大好きなぼうやのそばで過ごす
幸せな日々。
ところがある日、突然の別れが訪れる。
ビロードのうさぎに奇跡が
起こりますように・・・。
祈りながらページをめくる。
この絵本を一緒に読んだ息子も、
今は格好つけたいお年頃。
ピンクちゃんを抱いて眠ることはない。
けれど、息子にとっても私にとっても、
間違いなく〝ほんとうのもの〟になったピンク色のヒョウ。
今日も母とともに、かつてのぼうやの
帰りを待っている。
文 藤巻 吏絵(ふじまき りえ)
『唐棣(はねず)色の明日』で第十一回銀の雫文芸賞最優秀賞受賞。
同作品はNHKFMにてラジオドラマ化。
著書に、『美乃里の夏』、こどものとも『アルマジロくんとカメくん』ともに福音館書店、『ふみきりのかんたくん』教育画劇。
他に、紙芝居のお話や合唱曲の歌詞なども手掛ける。
おしまい。