あんなに あんなに
ヨシタケシンスケ
ポプラ社
時間
洗濯物を干しながら、自分の服が
一番小さいことに気づく。
息子のものか、夫のものか、
区別がつかない靴下。
ベランダで場所をとらない、
可愛いTシャツばかりだったのに。
そんなことを思い始めたころ、
『あんなに あんなに』という絵本を
見かけて、手に取った。
忍び笑いがもれると同時に、
目頭が熱くなった。
息子が歩き始めたころ、
小学校に入学したころ、
その時々の悩みと喜びに、
必死で向き合う自分がいた。
泣いたり、笑ったり、
目まぐるしかったな。
けれど、こうして振り返る日が
やってくる。
あんなに小さくて、
たくさんおしゃべりして、
あんなに私にべったりだったのに。
話しかけても、たまにしか返事がない
思春期の息子。
こっそり眺める寝顔は、
今も可愛いけれど。
時間は流れ、共有した過去が
増えていく。
愛おしい過去の時間。
その過去が、今の私と家族を
つくっている。
そして、今朝のたわいもない
会話もいつか、
〝あんなに・・・だったのに〟と、
穏やかに、笑って思い出す日が
きっとくる。
文 藤巻 吏絵(ふじまき りえ)
『唐棣(はねず)色の明日』で第十一回銀の雫文芸賞最優秀賞受賞。
同作品はNHKFMにてラジオドラマ化。
著書に、『美乃里の夏』、こどものとも『アルマジロくんとカメくん』ともに福音館書店、『ふみきりのかんたくん』教育画劇。
他に、紙芝居のお話や合唱曲の歌詞なども手掛ける。
おしまい。