赤ちゃんや子どもが便秘になったとき、どう対処したらよいか悩んでいるママやパパは多いのではないでしょうか。
腸などの消化器官が未発達な乳幼児は、便秘になることが珍しくありません。
今回は「あかちゃんとこどものクリニック」院長 田中秀朋先生に、便秘の基礎知識や、その予防と解消法を教えていただきました。
この記事のもくじ
この記事を監修いただいたのは…
あかちゃんとこどものクリニック 院長 田中秀朋さん
医学博士。日本小児科学会認定専門医。1990年東京医科歯科大学医学部卒業。
東京都立母子保健院、川口市立医療センターで新生児医療、川口工業総合病院で一般小児科の経験を経て、2007年「あかちゃんとこどものクリニック」を川口市に開設。
「病気を診るだけでなく、お母さんやお父さんが不安なときの相談役になるのが小児科医の役割」と語る。
赤ちゃんの便秘ってどんな状態?
そもそも、便秘ってどんな状態のこと?
便秘とは、硬い便や大きな便が、便の通り道をふさいでいる状態です。そのため、排便のときに苦痛をともないます。
毎日便がでていても痛みや出血をともなうようなら便秘の可能性がありますし、数日でなくてもやわらかい便がスムーズにでていれば問題ない場合もあります。
「普通のうんち」ってどんなかたち?
ある程度の年齢になると、「普通のうんち」はバナナのような長いかたちになります。
親指くらい(3~5センチ程度)の短い便は要注意。硬くて丸いコロコロ便なら便秘の可能性が高いでしょう。
便のかたちと硬さを分類した「ブリストル便性状スケール」と見比べて、便の状態を確認してください。
おむつをしている乳幼児は、便が崩れてかたちを確認できないこともありますね。お味噌くらいのやわらかさが普通の状態。粘土くらいの硬さは要注意と考えてください。
便秘は大きく2つにわけられる
便秘は大きく「機能性便秘」と「器質性便秘」にわけられます。
機能性便秘
健康な人にも起こる可能性がある便秘です。
その多くは食事や運動などの生活習慣を見直すことで症状を改善できます。
器質性便秘
腸や神経などの疾患が原因で起こる便秘のため、治療が必要です。手術を行うケースもあります。
一般的に多くの人が悩まれているのは機能性便秘です。この記事では、機能性便秘の予防や改善・解消法を紹介していきます。
赤ちゃんが便秘になったらどうしたらいい?
母乳とミルクで、うんちに違いがある
母乳とミルクの成分はよく似ていますが、違いもあります。
母乳はミルクと比べ、便秘になりにくいのです。母乳とミルクを同じ量飲んでいても、母乳は成分のほとんどが吸収されて多くは尿として排出されるため、便の量は圧倒的に少なくなります。
母乳だけで育っている赤ちゃんは、3日間排便がなくても心配しすぎないでください。実際、「1週間うんちがでない」と来院した赤ちゃんに浣腸をすると便はやわらかく、結果として便秘ではなかった、というケースもあります。「お腹がはって機嫌が悪い」、「排便時に苦しそうにしている」、「母乳を飲まない」、「熱がある」などの症状がみられたら、病院を受診するとよいでしょう。
ミルクを与えている場合(混合授乳も含む)や、離乳食がはじまったら、排便が3日なければ病院を受診することをおすすめします。また毎日便がでていても、コロコロ便しかでないときは医師に相談しましょう。
自宅でできる赤ちゃんの便秘の改善・解消法
便秘を改善・解消するために、ご家庭でできることもあります。赤ちゃんによって、効果があらわれないこともありますが試してみる価値はあります。
「の」の字マッサージをする
赤ちゃんのお腹に「の」の字を書くように手のひらでなでてあげます。腸の動きにそってマッサージすることで、消化のためのぜん動運動を促す方法です。
麦芽糖(マルツエキス)を与える
麦芽糖は善玉菌の栄養となり、その発酵作用で腸の運動を活発にすることが期待できます。麦芽糖を含む「マルツエキス」は赤ちゃんでも飲める便秘薬として使用されています。
乳酸菌製剤を与える
「ビオスリー」や「ビオフェルミン」など、乳酸菌を含む整腸剤には赤ちゃんから服用可能なものもあります。善玉菌を増やすことで、腸内環境を整える効果が期待できます。
浣腸綿棒をする
肛門に刺激を与えて、排便を促す方法です。赤ちゃんの便秘で悩まれている方には「2日間便がでなければ、3日目にはご自宅で綿棒浣腸をしてください」とおすすめしています。
授乳や離乳食で気をつけること
便秘は食べ物と深くかかわっています。便秘が続くときは、粉ミルクのメーカーを変えるのもよいでしょう。赤ちゃんとミルクには相性があるため、便秘が改善することもあります。
離乳食がはじまってからは、食物繊維とミネラルが豊富な食材や、発酵食品を意識してとると便通がよくなります。成長に合わせ、海苔やワカメなどの海藻類、柑橘系の果物やキウイフルーツ、ヨーグルトや味噌などを取り入れてください。
汗をたくさんかく夏場は、便の水分量が減って便が硬くなりがちです。母乳やミルクの量を増やしたり、白湯や麦茶をあげたりするとよいでしょう。
綿棒浣腸の正しいやり方
赤ちゃんの便秘に有効な解消法が綿棒浣腸です。「綿棒浣腸をしても便がでなかった」という場合、そのほとんどがやり方を間違っています。ぜひ、正しい方法を覚えてください。
綿棒浣腸に必要なもの
- 大人用の綿棒
- ワセリンなどの潤滑剤
- おむつ替えシートや新聞紙
綿棒浣腸の手順
- 赤ちゃんを仰向けに寝かせ、お尻の下におむつ替えシートや新聞紙を敷きます。
- 綿棒の綿球に潤滑剤をたっぷり塗ります。
- M字型に開脚するよう足をやさしく持ち上げ、肛門に綿球がすっぽり隠れるくらい(1.5~2cm程度)挿入します。
- 肛門の内側をなぞるように、1円玉くらいの大きさの円をゆっくり描いて刺激します。
- 便がでるまで、60秒ほど続けましょう。
注意点
- 潤滑剤はワセリンやクリームなど、粘度の高いものを使用しましょう。サラサラのオイルでは、粘膜を傷つけてしまう可能性があります
- 足を持ち上げるとき、太ももをそろえるように持ち上げてしまうと股関節脱臼を起こしやすいので注意してください
- 赤ちゃんが痛がって泣いたら、すぐに中止してください。痛みの原因が別にある可能性もあるため受診をおすすめします
幼児の便秘
便秘になりやすい時期がある
便秘になる子が増えるのが3歳前後です。これは、トイレトレーニングの開始や、保育園や幼稚園に通いはじめる時期と重なります。
排便とは非常にデリケートなもので、環境が整わないとできません。子どもをトイレに座らせることはできても、排便を強制はできないのです。
保育園や幼稚園に通うようになると、トイレに行くタイミングを逃し、我慢して帰ってくる子もいます。
便秘がちな場合、トイレトレーニングはあまり無理をせず、成長の度合いや様子をみながら行いましょう。『シアーズ博士夫婦のベビーブック』という本の、トイレトレーニングの項目を参考にされるとよいと思います。
バランスのよい食事で、便秘を予防&改善
便秘の予防と改善には、食生活の見直しが欠かせません。でんぷん質の多い米や小麦は便を硬くする傾向があるので、ご飯やパンなどの主食だけでなく、主菜や副菜もバランスよく食べさせましょう。
便通を整えるのにおすすめなのは、食物繊維とミネラルが豊富な食材と発酵食品です。
前者は便をやわらかくして腸のぜん動運動を高め、後者は善玉菌を増やすことで腸内環境を整えてくれます。
食物繊維とミネラルが豊富な、便をやわらかくする食材
- ワカメやひじきなどの海藻類
- しめじやしいたけなどのきのこ類
- ミカンやオレンジなどの柑橘系果物や、キウイフルーツ
善玉菌を増やす発酵食品
- ヨーグルト
- 納豆
- 味噌
など
意外かもしれませんが、大量に摂取すると便秘につながるのがバナナと牛乳です。
バナナに含まれるタンニンは腸のぜん動運動を抑制します。水代わりに牛乳を飲んでいるお子さんは便秘がちという研究報告もあるので注意しましょう。
運動+食後のうんちタイムで快便に
よく歩くことが便秘解消につながります。
「かかと落とし」などの運動もおすすめです。イスの背もたれなどをつかみ、つま先立ちの姿勢から、かかとをストンと落とします。
歩くときや、かかとを落とすときの振動が腸の動きをよくしてくれます。
朝食や夕食のあとは「うんちタイム」と決めて、習慣にしてください。便意をもよおしてからトイレにいくのではなく、食事のあとはトイレでふんばってみるのです。
実は、腸の動きが最も活発になるのが食後。排泄しやすいタイミングを逃さないようにしましょう。
便秘の放置はNG!受診の目安は?
便秘を放置すると腸内の便はさらに固くなり、排便がますます困難になります。硬い便をだす際に、肛門が傷ついて痛みや出血をともなうこともあります。すると排便に恐怖心を抱いて我慢するようになり、便秘の悪循環に陥ってしまいます。
また便秘は、腹痛、嘔吐、発熱、食欲低下を起こす原因にもなるため、放置してはいけません。
発育途中の乳幼児にとって見過ごせないのが、食欲低下です。慢性的な便秘から食欲が落ちて栄養不足になり、体重が増えなくなったり、身長が伸びなくなったり、骨折しやすくなったりする可能性があります。
器質性便秘などの疾患を早期に発見するうえでも、便秘を放置せずに医療機関を受診することが大切です。
通常、3日間排便がなければ病院の受診をおすすめします。
ただし、前半に記載した通り、母乳だけで育っている赤ちゃんの場合は、心配しすぎなくて大丈夫です。
たかが便秘と見過ごさないで
乳幼児の便秘は放置するほど深刻になるため、「たかが便秘」と侮ってはいけません。
紹介した便秘解消法を試しても、快便とならないときにはすぐに小児科を受診してください。また、食事を中心とする生活習慣を見直して便秘を予防・改善することも大切です。