子どもの心は様々なことで揺れ動きます。弟や妹が生まれたことで上の子がいうことを聞かなくなった、保育園に行くのをぐずっていたら実は友達とケンカしていたということも……。
コロナ禍により生活が大きく変わるなかで、子どものメンタルが心配なママやパパも多いようです。
今回は心理カウンセラー・メンタルトレーナーとして活躍する、浮世満理子さんに子どものメンタルケアについて、幅広くお話をうかがいました。
この記事のもくじ
浮世満理子さん プロフィール
アイディアヒューマンサポートサービス 浮世満理子さん
心理カウンセラー、メンタルトレーナー。アメリカで心理学を学び、帰国後、株式会社アイディアヒューマンサポートサービスを設立。サッカーJ1チームや五輪チームなどのトップアスリート、芸能人、企業経営者などのメンタルトレーニングを行うかたわら、教育部門アカデミーを設立し、心のケアの専門家の育成も行う。
「事実」は変えられないが、親が「解釈」を変えれば子どもの世界は変わる
―弟や妹が生まれたことで、上の子がいうことを聞かなくなったという悩みをよく聞きます。また、コロナ禍で子どもが甘えん坊になったり、逆に怒りっぽくなったりするケースもあるようです。環境の変化によって子どもの心が不安定になったとき、どのように対処すればよいのでしょうか
浮世さん:子どもは経験値が少ないですから、ものの捉え方が大人とは異なります。例えば弟妹の誕生も、子どもにとっては世界がひっくり返ったような体験であることを、まず理解しましょう。不安や寂しさをうまく表現できずに、親からすると「困った行動」をとってしまいます。
では、なるべく変化が少ないように親がケアすればよいかといえば、そうではありません。たとえ大きな変化が起きても「解釈」を変えればその意味や感じ方は変わりますよね。「事実」は変えられなくても、「解釈」は変えられるのです。
―「解釈」を変えるとは、どのようなことでしょうか
浮世さん: 例えば、妹や弟が生まれた。これは「事実」です。これを「お母さんをとられ、自分の存在が否定された」と子どもが「解釈」していたら、「家族が増えるのは幸せなこと」と伝えましょう。お母さんに相手をしてもらえなくて寂しく感じているのなら、一緒に赤ちゃんのお世話をすればよいのです。すると、妹や弟は母親を奪う存在ではなく「ミルクをあげる体験ができて、かわいく笑ってくれる存在」になりますよね。
―子どもから見える世界が、解釈によって変わるんですね
浮世さん:そうです。ただ、大切なのは親自身が解釈を変えること。「赤ちゃんのお世話をしなきゃ、だけど上の子の面倒も見なくちゃ」とピリピリして怖い顔をしていたら、子どもも不安になります。新しい家族の誕生は最高にハッピーなことですから、親自身がそう解釈して接することで、子ども自身も前向きな気持ちになれるはず。「お姉ちゃんだから」と我慢を強いるのではなく、「お手伝いしてくれて助かるよ」と伝えられる関係を築けるとよいですね。
コロナ禍で不安定なお子さんも、親がコロナをどう「解釈」しているかが影響します。マスクや手洗いなど、やるべきことはやりつつ、それでも感染するときはすると、親が許容力を上げることも必要です。間違っても、コロナに感染した人を悪く言うようなことはしてはいけません。親のそういった言動を、子どもは敏感に感じとります。ご自身が冷静になり、子どもが何に不安を感じているのか耳を傾けてあげてください。
子どもの話を聞き、感情を問うことが大切
―子どものメンタルケアで大切なことを教えてください
浮世さん:子どもの話を聞いてあげること。用事の手を止めて、本人が納得するまで「聞き切る」ことが大切です。そのうえで、「どんな気持ちだったの」と問いかけてください。例えば、友達とケンカをしてしまったとき「腹が立った」のか「悔しかった」のか、感情を聞きだして、共感してあげてほしいのです。
―「友達に腹が立った」ことに、共感してよいのでしょうか?
浮世さん:勘違いしている方もいますが、「腹が立つ」という感情は悪くありません。まず、その感情は受容してあげます。肝心なのはその後の行動で、腹が立って「友達を突き飛ばした」なら、それはダメだと言って聞かせなくてはいけませんよね。腹が立つことは悪くない、だけど手をだしてはダメ。この違いを教えなくてはいけません。
―手をだしてしまう子には、どう言って聞かせるのが効果的ですか
浮世さん:友達に手をだすときには、「おもちゃを取られた」など何か原因があるはず。そんなときは、「“やめて”と言おうね」と教えてください。
実は今、「やめて」と言えない子が増えていると感じます。
せっかくお子さんが「やめて」と言っているのに、親御さんが「お友達にそんなこと言っちゃダメでしょ」と制止してしまうこともあります。けれど、それでは健全な関係は築けません。手をだすのはもちろんダメですが、嫌なことをされてガマンするのもよくありません。「嫌なことをされたら“やめて”と言おうね。やめてくれたら“ありがとう”って言おうね」と話してあげてください。
―子どもの話に耳を傾けながら、トラブルを解決する道筋を示すのですね
浮世さん:はい。大切なのは、子ども自身がストレスと向き合えるよう導くこと。子どもたちはこれから、激動の時代を生きていくわけですから、メンタルケアをしながら強い心を育んでいけるといいですね。
自己肯定感とストレス耐性の掛け算が、メンタルの強さにつながる
―強い心を育むには、どのようにすればよいのでしょうか
浮世さん:キーワードは「自己肯定感」と「ストレス耐性」です。最近は、自己肯定感を高めるため「褒めて育てる」ことが推奨されていますが、それだけでは十分ではありません。褒めてばかりで叱られずに育てられると、ストレスに耐えたり、乗り越えたりする強さである「ストレス耐性」が下がり、心が折れやすくなってしまいます。自己肯定感とストレス耐性は、いわばメンタルの両輪。どちらが欠けてもマズイのです。
―自己肯定感とストレス耐性を高める方法を教えていただけますか
浮世さん:自己肯定感を高めるためには、子どもの行動や努力の過程を褒めるのが有効です。頑張ったことを褒められたら、大人もうれしいですよね。オリンピックにでれば、みんなが褒めてくれます。けれど、ケガをしたときもスランプのときも、頑張っていること自体を褒めてくれるのは家族だけ。それが愛情だと思います。
一方で、ダメなことはダメと教える。約束したことは守ろうと伝えることも必要です。適切に叱ることでストレス耐性がついていきます。
子どものやることをすべて受け入れる方が親は楽なんですね。けれど、好きなことだけをしてストレス耐性が低いままでは、小学校や中学校に入学したときにその子自身が困ります。実際に、感情のコントロールができない子どもが周囲に溶け込めず、結果として学校生活のなかで自己肯定感が下がってしまうケースもあります。
大人になったときに生活していける程度の社会性を育むトレーニングは、メンタルケアの観点からも大切です。
コロナ禍のマスク生活が子どもの発達に与える影響
―コロナ禍でマスク姿が日常となり、子どものコミュニケーション力やメンタルに影響がないか心配という声も多く聞かれます。浮世さんのご意見をお聞かせください
浮世さん:マスク生活の影響は、少なからずあるでしょう。江戸幕府の徳川家光の時代に、乳母である春日局が権力を持ちすぎたことから、徳川家では乳母は布で顔を隠して授乳するようになった、という逸話があります。それほど、表情と信頼関係には密接な関係があります。
とはいえ、今の社会ではマスクは欠かせませんから、ご家庭でマスクを外しているときはお母さんやお父さんがなるべく表情豊かに話しかけ、子どもと笑い合う時間をつくることを心がけてください。それが情緒の発達の助けになります。案外、親子で声をだして笑い合うことって少ないんですよ。
―最後に、子育てを頑張っているママやパパにメッセージをお願いします
浮世さん:今の親御さんは、子どもの心に寄り添いたいという思いがとても強く、みなさん一生懸命です。ただ、それが義務感になるとご自身が苦しくなってしまいます。 “いい子”に育てるために「褒めなければ」「抱きしめなければ」「しつけなければ」と考えるのではなく、適度な距離を保ちながら「ちゃんと褒めて、ちゃんと叱ろう」とお伝えしたいですね。本来、子育ては最高に幸せな時間のはず。もちろんつらいこともあると思いますが、貴重な瞬間をぜひ楽しんでください。
キッズアライズのまとめ
子どもの心が不安定になって「困った行動」をしているとき、どう対処したらよいかという問いからはじまった取材ですが、お話を聞くうちに、子どものメンタルケアには、親のメンタルが問われると気づかされました。子どもの健やかな成長を願うとき、まずはママやパパが前向きな気持ちになれるよう心と環境を整えていきたいですね。