男性の育児休業取得率が8割を超えるスウェーデンで結婚・出産を経験し、日本・スウェーデン両国の社会システムに詳しい鈴木賢志教授に、男性の家事・育児参加がもたらす家庭、家族への効果をお聞きしました。
かわいい我が子ともっと楽しい時間を過ごしたい、育児にきちんと向き合いたいというパパたちのヒントになるようなことをお伝えしていきます。
この記事のもくじ
鈴木賢志さんプロフィール
1968年11月27日生まれ。
明治大学国際日本学部教授・学部長/一般社団法人スウェーデン社会研究所代表理事・所長。
1995年に渡英し、イギリスで博士号を取得後、1997年からスウェーデンのストックホルム商科大学欧州日本研究所に勤務。
スウェーデンで約10年を過ごし、結婚・出産を経験。帰国後は、日本と北欧を中心とした比較社会システムを研究。一児の父。
育児経験は、留学経験などと同じ立派な社会的スキル
-スウェーデンで結婚・子育てを経験されている鈴木さんですが、スウェーデンでは男女ともに8割前後の人が育児休業をするそうですね
鈴木さん:日本から妻を呼び寄せ、スウェーデンで結婚しましたが、妻が妊娠したことを周囲に伝えたところ「日本人だから知らないだろうけど、育児休業は取るべきもの」と諭されました。
むしろ、取らないほうがおかしいという風潮で、最初は取得を考えていなかったものの、結局3ヶ月間取得しました。
-なぜ、スウェーデンではそこまで進んでいるのでしょうか
鈴木さん:きっかけは経済の悪化です。
男女平等への機運が高まっていたことや、夫婦二馬力でないと家計を支えられなくなったことなどが重なり、女性が社会に進出。
法制度や仕組みが整い、それに合わせて国民の意識も変化していきました。
-制度や仕組みで優れていると感じられた部分はありますか?
鈴木さん:育児休業中であっても、社会や会社とゆるく繋がっていて孤独感がない点は良いと思います。
日本は情報管理などの観点から仕事を社外に持ち出せないことも多く、育児休業中は完全に仕事から離れてしまうことも多いのですが、それでは置いていかれる気がしてしまうため、取得に消極的になりがちです。
スウェーデンの方法は、男性上司も育児休業経験者であり、そういったつらさや大変さを知っているからこそ、そのようになっていったのだと思います。
とはいえ、日本も最近はリモートワークが進んできているので、在宅でできる範囲の仕事をしながら育児ができる下地は整いつつあるとも言えそうです。
-育児休業が仕事や出世においてマイナスになってしまう不安はどうしてもありますよね
鈴木さん:ところがスウェーデンでは、男性の育児休業経験は転職の採用の際にプラスの要素として見る企業が多いという調査結果※があるんです。
多種多様な人がいる会社組織の中で、言葉の通じない赤ん坊との時間を過ごしたことがある人の対人スキルに期待する企業が多いんです。
育児経験を留学経験などと同じような経験値として評価しています。
-育児経験もスキルのひとつなんですね
鈴木さん:今、日本もかつてのスウェーデンと同じように経済状況が悪化しています。
つまり、社会的条件は整ってきています。
なのに我慢して働いて、特に男性は「自分が稼ぎを増やさなければ」と頑張っている。
男だからといって我慢する必要はありません。
関わりが薄いのに「父親としてアドバイス」は通じない
-日本の男性の家事参加率が低いのは、なぜだと思われますか?
鈴木さん:社会において、役割分担は一定の効果を発揮します。
男性は働いて、女性は家庭を守る。
そうやって分業したほうが効率的で良いと思いがちですが、家庭においては分業や効率だけでモノを語ってはいけないと感じています。
-それは、なぜでしょうか
鈴木さん:家庭をつくり、子どもを育てるのは夫婦の共同作業です。
そもそも、結婚式では“ケーキ入刀“をして「これが初めての共同作業です」と言われ、結婚生活が始まったはず。
それなのに、生活するうえですべきことを分業していたら、何のための夫婦なのでしょうか。
-確かにそうですね(笑)
鈴木さん:分業などせず、家庭内における家事や育児に、もっとパパが関わって良いと思います。
なにより、関わることを疎かにしていると、家庭や子どもが重要な岐路に立ったとき「あなたは関わってこなかったんだから黙ってて」と言われてしまうんですよね。
それを回避するためには、できるだけ早いうちから関わっておかないといけないんです。
実際、学生たちから聞くんですが、就活をするにあたって、父親が「ここは父親の出番。社会人の先輩として……」とアドバイスをしてくるそうなんです。
でも、今まであまり関わってこなかったため「自分の何を分かっているのか?」と感じる父親にアドバイスをもらっても参考にならないという気持ちがあるようです。
子どもが大きくなってからでは遅いんです。
子育てがもたらす、親として、夫として、仕事人としての強み
-では夫婦で家事・育児を行うことのメリットはなんでしょうか
鈴木さん:スウェーデンでよく言われているのは、母親だけが子育ての中心にいると、子どもは母親1人との対人スキルしか育めないというもの。
父親など別の人間とも接する経験を養うことで様々な変化に対応できるようになると考えられています。
片方の親1人の価値観で育つよりも、2人の価値観の間に立ってバランスをとりながら育っていくほうが子どもにとって良いことだと思います。
-鈴木さんご自身が、家事・育児を積極的にされてきて、良かったと感じていることはありますか?
鈴木さん:子どもの成長を見ることができる点はもちろんですが、仕事をする男性としてすごく感じているのが「自分が鍛えられた」という点です。
子どもが小さい頃は、子育てにまつわる家事という別タスクがある状態で仕事をこなしていたので、時間内に業務が終わるよう調整していました。
子どもが成長し、時間的制限がなくなった今、自分のキャパシティが驚くほど増えていることに気づきました。
-時短勤務中の方は、仕事の配分の仕方がうまいという話はよく聞きます
鈴木さん:そうなんです。時間の使い方がすごくうまくなったし、時間が延ばせない中で意思決定をしなければならないので、決断力もつきました。
言うなれば、家事・育児ができる人は、仕事もできる人。
それが一番モテる人になっていけば、もっと家事・育児のシェアは進んでいくと思います。
-父親として良かったと感じることはありますか?
鈴木さん:息子は高校生で生意気な盛りなんですが、そんな年頃でも会話が多く、結構仲良くしていると思っています。
また、外で仕事をしている姿だけではなく、実際に子育ての苦労もしてきたうえで「俺の背中を見ろ」と言える父親になれていると思っています。
それは自分の誇りでもありますね。
子どもの「かわいい瞬間」を見逃さない
-家事をシェアするためのコツはなんだと思われますか?
鈴木さん:家事の分担はしないことです。
働いていると、どこに時間がかかるかは互いに違うもの。
相手ができないところを自分がする関係が良いでしょう。
下手に役割分担を決めてしまうと、自分ができないときに罪悪感を持ってしまいますし、相手がやっていないときにはイライラしてしまいます。
-ただ、前提として男性側がすべての家事を、それなりにできないといけませんね
鈴木さん:これまでほとんど家事をやったことがない男性に対しては、女性も「初めてだから、慣れていないから仕方ない」と理解しておく必要はありますね。
ここでも、目の前の合理性、効率性だけを求めてはいけません。
共同作業の話と一緒で、夫婦なのだから一緒にやっていく。
そこを忘れないようにしたいですよね。
-キッズアライズを見ているパパやママにメッセージをお願いします
鈴木さん:子どもって、小さい頃は本当にかわいいんです。
その瞬間に関われるのは、本当にかけがえのないこと。
この至福の時間を、小さいお子さんがいるパパには経験してほしいです。
「父親だから」と変な男の意地を張ったり、家事や育児のやり方が悪くて妻にちょっと強く注意されたからムクれてやらないなんてもったいないですよ。
かわいいのは今だけ。どんどん生意気になっていくから(笑)。
でも、子どもと向きあった時間は、自分の人生の中でかけがえのないものになります。
後になってみないとわからないものですが、私自身は今振り返ってみると家事・育児に関わってきて良かったと強く感じています。
まとめ
育児や家事を夫婦でシェアしていく。
それは、子どもにとっても、会社にとってもメリットが大きいことがわかりましたが、なにより、子どもの「かわいい瞬間」に立ち会えること。それが最大の喜び、メリットなのかもしれませんね。
※スウェーデン社会保険庁「両親保険と新しい親のあり方(Föräldraförsäkringen och den nya föräldranormen)」2014年調査より。