妊娠中は生の食材を控えたほうがよいとされており、生卵もそのひとつです。なぜ妊娠中は生卵を避けたほうがよいのでしょうか。この記事では、Child Health Laboratory代表で医師の森田麻里子さん監修のもと、妊婦が生卵を避けたほうがよい理由や、卵を食べる際の注意点についてご紹介します。
この記事のもくじ
この記事を監修いただいたのは…
チャイルドヘルスラボラトリー代表・医師 森田麻里子さん
東京大学医学部医学科卒。麻酔科医として勤務後、2017年の第1子出産をきっかけに2018年より子どもの睡眠の専門家として活動。
2019年昭和大学病院附属東病院睡眠医療センター非常勤勤務を経て、現在はカウンセリングや育児支援者・医療従事者向け講座、企業と連携したアプリ開発、コンサルタント育成などを行う。
妊娠中の生卵は避けたほうがよい
なぜ妊娠中は生卵を避けたほうがよいのでしょうか。その理由をご紹介します。
食中毒のリスクが高まる
妊娠中は免疫力が低下しているため、妊娠前に比べると食中毒を引き起こしやすくなっています。そのため生卵は食べないほうがよいとされています。食べたからと言って必ずしも食中毒になるというわけではありませんが、妊娠中は薬を十分に服用できないこともあるので、あらかじめ避けたほうが安心でしょう。
生卵に潜むサルモネラ菌
生卵をはじめ、加熱が不十分な卵や肉・魚には、食中毒の原因となるサルモネラ菌が付着している可能性があります。サルモネラ菌はニワトリ、ブタ、ウシなど家畜の腸管内に生息しており、ニワトリの場合も卵を産み落とす際に付着します。菌に感染すると激しい嘔吐や下痢、発熱や腹痛を引き起こし、お腹が張ったり、重篤なケースでは流産や早産につながるリスクがあります。原因となる食材を食べてから8〜48時間程度で発症することが多いです。
しっかり加熱した卵は食べても大丈夫
卵は血や肉を作るもととなるタンパク質やエネルギー源である脂質、ビタミン・ミネラルなどを含んでおり、豊富な栄養素を摂取する観点から欠かせない食材です。そのため妊娠中も食べておきたいもの。サルモネラ菌は熱に弱く75℃、1分以上(または65℃で5分以上)の加熱で殺菌できるので、卵を食べるときはしっかりと加熱してください。半熟卵や温泉卵、スクランブルエッグなど十分に加熱しない卵料理は、菌が死滅していない可能性があるので避けるのが無難です。
卵による胎児への影響は否定されている
卵を食べることで、胎児への影響はあるのでしょうか。
サルモネラ菌は胎児には感染しない
妊婦がサルモネラ菌に感染すると、胎児にも感染してしまうのではと心配になるかもしれません。しかしサルモネラ菌が胎児に感染することはなく、直接的な影響はないとされています。とは言え妊婦が食事や水分が摂れないこと、発熱・腹痛や嘔吐下痢による間接的な影響がないとは言い切れないので、注意が必要です。
食物アレルギーの原因にはならない
かつては生卵を食べることで、「胎児が卵アレルギーになる」と心配されていました。しかし「食物アレルギー診療ガイドライン2021」によると食事制限をすることは推奨されておらず、むしろ特定の食物を避けることは母親の栄養状態に悪影響であり、推奨されないとしています。
妊娠中の食事制限により、アレルギーの発症を抑えるという情報の根拠はないので、過剰に心配しなくて大丈夫です。
妊婦が生卵を扱うときの注意点
生卵の食中毒リスクを抑えるためには、どのような点に気を付けて扱えばよいのでしょうか。
新鮮で保存状態のよい卵を選ぶ
生卵を購入するときは、新鮮で保存状態のよいものを選びましょう。賞味期限をチェックすることはもちろん、ひび割れがないかもチェックしましょう。ひび割れがあるものは、そこからサルモネラ菌が増殖している可能性があります。割れてすぐのものはよく加熱して食べ、いつ割れたかわからないものは捨てるようにしましょう。
購入後はすぐに冷蔵庫で保管
万が一購入した卵がサルモネラ菌に感染していた場合、温度が高いところに置いておくと菌が繁殖しやすくなります。そのため購入後はすぐに10℃以下の冷蔵庫で保存しましょう。ドアポケットは冷蔵庫の開け閉めによる温度変化が激しいので、冷蔵庫の奥に保管するとより安心です。
殻を割ったら、すぐに調理を
生卵は殻を割ると、より菌が増殖しやすくなります。そのため殻を割ったらすぐに調理してください。割った卵を一晩冷蔵庫に保管し、翌朝調理したもので食中毒になったケースもあります。生卵は使う分だけを冷蔵庫から出し、残った卵は保管せず処分してください。
手や調理器具はその都度洗う
日本では卵を出荷する前に表面の洗浄や殺菌が行われています。しかし卵の表面に菌が残っていたり、ひび割れなどから中で菌が繁殖していたりする可能性もゼロではありません。そのため卵を触ったらその都度手を洗い、調理で使用した器具などもしっかり洗うよう心がけましょう。
生卵以外に食中毒の原因となる卵類
卵が引き起こす食中毒は、生卵に限ったものではありません。食中毒を引き起こす可能性があるケースをご紹介します。
半熟卵や温泉卵
コンビニエンスストア等で市販されている温泉卵は管理が徹底されており、菌が死滅する温度で十分加熱されていることが多いようです。しかし自宅で調理した半熟卵や温泉卵は注意が必要です。サルモネラ菌が死滅する75℃で1分(または65℃で5分)以上の加熱(温度は食材の中心部)をしっかりと行う必要があります。また外食で提供された半熟卵や温泉卵もどのように管理されているか不明瞭なため、避けたほうが無難です。
うずらの卵
うずらの卵も鶏卵と同様に、サルモネラ菌に感染している可能性があります。自分で購入したときに扱いに注意するのはもちろん、外食などの料理に生のうずらの卵が入っていないか注意する必要があります。
手作りマヨネーズ
スーパー等で市販されているマヨネーズは卵が加熱殺菌されているため、サルモネラ菌を心配する必要はありません。しかし手作りマヨネーズには生卵が使用されているため、妊娠中は避けたほうがよいでしょう。
お弁当の卵焼き
お弁当の卵焼きにも注意が必要です。しっかりと加熱したつもりでも、意外に火の通りが十分でない可能性もあります。お弁当に入れてから時間がたつとさらに菌は増殖してしまうので、お弁当に卵焼きを入れる際には中心部まで十分に加熱するよう心がけましょう。お弁当の保管時の温度にも注意してください。可能であれば冷蔵庫に入れておいて、食べる直前に加熱するとよいでしょう。
妊娠中に卵を食べるときは、しっかりと加熱をしましょう!
妊娠中は無性に特定のものが食べたくなったり、食べられていたものが食べられなくなったりするなど、食の好みが変わることがあります。そのためどうしても卵が食べたくなることもあるかもしれません。そんなときは冷蔵保存されている新鮮な卵を選び、しっかりと加熱調理するなど、安心して食べられるよう心がけましょう。
文:山村智子