
妊娠中に体を動かすことについて、「どれくらいの運動なら安全なの?」「赤ちゃんへの影響はないの?」といった疑問や不安を感じる方もいることでしょう。
この記事では、産婦人科医でマタニティビクスインストラクターでもある、聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック理事長で院長の八田真理子先生の監修のもと、妊娠初期や妊娠中の運動について解説します。
妊娠初期に運動しても大丈夫なのか、安全に運動するには何に注意すればいいかなど、気になる疑問の参考にしてくださいね。
この記事のもくじ
この記事を監修いただいたのは…
聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック理事長・院長八田真理子さん

日本マタニティフィットネス協会認定インストラクター・NPO法人フィット・フォーマザー・ジャパン理事・日本医師会認定健康スポーツ医。
地域に根差したクリニックとして、思春期から老年期まで幅広い世代の女性の診療・カウンセリングに従事。
女性ヘルスケアに関する相談会やセミナーへの登壇など通じて、性教育・妊娠・不妊・更年期などの正しい知識の啓蒙にも積極的に取り組んでいる。
妊娠初期の運動は大丈夫?
妊娠初期の運動は、ママとおなかの赤ちゃんの安全を最優先に考えます。
ママもおなかの赤ちゃんの状態もよいなら、無理のない範囲で行うことは可能です。特に妊娠前から継続的に運動を行っていた場合、母子ともに元気なら大きな問題はないでしょう。
妊娠中の運動量の目安
日本臨床スポーツ医学会が公表している「妊婦スポーツの安全管理基準」によると、妊娠中の運動量の目安は週2〜3回程度で1回の運動時間は60分以内とし、時間帯は10時〜14時の間が望ましいとされています。
妊娠が判明してから新たに運動を始める場合は、原則として妊娠経過が良好で妊娠 12 週以降であることが条件です。
妊娠前から習慣的に運動を行っていた場合は、妊娠前の運動量を10とすると、妊娠中は6〜7割程度に控えるとよいでしょう。心拍数は120bpm〜130bpmを目安にしてください。
参考:日本臨床スポーツ医学会誌:学術委員会産婦人科部会提言
妊娠初期の運動は流産に影響する?
流産は妊娠22週より前に妊娠が終了してしまう状態のことをいいます。なかでも妊娠12週未満での流産を早期流産といい、最も多い原因は胎児の染色体異常です。
妊娠初期における流産の多くは、運動とは無関係の要因によるものであり、運動が直接的な原因となるケースはまれです。
しかし、激しい運動やおなかに強い圧がかかる運動は、妊娠期を通して避けるようにしましょう。
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妊娠中の運動で得られる効果
妊娠初期に限らず、妊娠期間を通じて無理のない範囲で体を動かすことは、ママとおなかの赤ちゃんの健康維持によい影響をもたらすとされています。
①体重の維持
ほどよい運動をすることで、妊娠中の体重管理に役立ちます。急激な体重増加は、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの発症リスクを高める要因です。
妊娠中は体重の増え方をこまめにチェックし、順調な妊娠経過であるかをしっかりと観察していきましょう。
妊娠中に体重の増え方を確認することは、ママやおなかの赤ちゃんの健康を守るために重要です。
②便秘予防
妊娠中はホルモンバランスの変化や、おなかが大きくなることによる臓器の圧迫により、便秘になりやすい傾向があります。
運動で血行がよくなると腸の動きは活発になります。便秘の解消に役立ち、スムーズな排便を促しやすいでしょう。
③体力の維持
「出産は体力勝負」とよくいわれます。実際に赤ちゃんが生まれてくるまでには時間がかかることも多く、出産するのには体力が必要です。
また、赤ちゃんが生まれるとすぐに育児が始まります。夜間の授乳やオムツ替えなど、赤ちゃんのお世話にも体力をつかうため、妊娠中に無理のない範囲で運動を継続し、体力をつけておくようにしましょう。
④ストレス緩和
妊娠中は体の変化に心が追いつかなかったり、ホルモンバランスの乱れから自律神経が不安定になったりしやすいため、ストレスを感じやすくなります。
適度な運動は、ストレス軽減につながります。体を動かすことで気分転換になり、イライラを緩和してくれるでしょう。
妊娠期に運動する際の注意点
妊娠期間中の運動は、体調に十分注意しながら行うことが非常に重要です。
転倒の危険がある運動は避ける
妊娠中はおなかが大きくなるにつれて体重が増え、体の重心が変化することでバランスを取りにくくなります。そのため、転倒リスクの高い運動は控えるようにしましょう。
もし、転倒して腹部に強い衝撃を受けた場合は、念のため症状の有無にかかわらず速やかに医療機関へ受診しましょう。
運動量や頻度
妊娠中に運動を始める、または継続する際は、あらかじめ医師に相談しておくとよいでしょう。具体的な運動内容や回数を伝え、アドバイスをもらうことで安心して取り組めます。
また、妊娠経過に問題がある場合は、運動を控えるように指導されることもあります。
なお、妊娠中の体調が良好で経過に問題がない場合でも、激しい運動や長時間の運動は避けるようにしてください。
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運動する環境や気温
妊娠中は、運動をする場所や気温にも十分気を付けるようにしましょう。
日差しが強い炎天下や湿度が高い環境での運動は避けてください。体力を奪われるだけでなく、体温が上昇することでおなかの赤ちゃんに影響を及ぼす可能性もあります。
なるべく涼しい場所を選び、こまめに休憩を取りながら体を動かすように心がけましょう。
おなかの張りや胎動に注意する
妊娠中に体を動かす際は、自身の体調にいつも以上に気を配りましょう。
特に妊娠中期以降はおなかが張ることがあります。運動の前後におなかが張っていないか、痛みはないか、胎動はいつも通り感じられるかなどを確認するようにしてください。
おなかの張りや痛みが続いている、胎動がいつもより少ない・感じられないなど、普段と様子が違う場合は、自己判断せずにすぐに病院を受診しましょう。
妊娠期にできるおすすめの運動
日本の産婦人科学会は、妊婦の有酸素運動を推奨しています。
健康上の理由で運動が禁止されていない場合を除き、定期的に体を動かすことで体重のコントロールや筋力低下を防ぐことが大切です。
妊娠初期
妊娠4〜15週までの妊娠初期は、流産や早産の心配から運動するのをためらう方も多いのではないでしょうか。
ですが、妊娠初期の運動と流産との直接的な関連性は確認されていません。普段から運動が習慣になっている方は、妊娠後も継続して問題ないでしょう。
ただし、内容によっては運動量を調整したほうがよいケースもあるため、一度医師に相談しておくと安心です。
妊娠初期から運動を開始する人には、ストレッチやウォーキングなど軽いものがおすすめです。つわりがある方や体調がすぐれない方は、無理に体を動かす必要はありません。
妊娠中期
妊娠16〜27週の妊娠中期は安定期に入り、ほとんどの方はつわりが落ち着き体調も安定します。
食欲も出て体が楽になってくる時期なので、運動を始めるのに適したタイミングです。
体の柔軟性を高めるマタニティヨガや体への負担が少ないマタニティスイミングなど、体調に合わせて取り入れてみるのもよいでしょう。手軽に始められるウォーキングもおすすめです。
しかし、安定期に入ったからといって無理は禁物です。体調に気を付けて楽しく体を動かすように心がけてください。
妊娠後期
おなかも大きくなる妊娠28週以降は、日常生活の動きも大変になり、体を動かすのがきついと感じることが多くなります。
決して無理はせず、運動は体調をみながら行うようにしましょう。
ストレッチや軽い筋力トレーニング、マタニティエクササイズなど、自宅で手軽にできる運動がおすすめです。
間もなく控える出産やその後の育児には、体力が必要です。できる範囲で計画的に体を動かし、体力の維持に努めましょう。
しかし、妊娠後期はおなかの張りや息切れといった症状のほか、むくみなどの体の変化も大きくなります。無理な運動は行わず、少しでも異変を感じたら、ためらわずに病院を受診しましょう。
無理のない範囲で体力作りをしましょう!
妊娠中に運動をすることは、体重管理や便秘予防、ストレス解消など、さまざまな効果が期待できます。
ただし、無理は禁物。妊娠初期に限らず安定期に入っても安心せず、なるべく激しい運動は避けてウォーキングやストレッチ、ヨガなどを妊娠前の6〜7割程度の運動量で行う程度に留めておきましょう。
運動中にきついと感じたらすぐに休憩し、水分補給も忘れないでください。
汗をかいたら体を拭く、シャワーを浴びるなどし、体を清潔に保つことも大切です。無理なく自身の体調に合わせて体を動かし、健康な妊娠生活を送りましょう。
文:misono