ママと赤ちゃんが離ればなれになるときや、赤ちゃんが直接おっぱいから上手に飲めないときに行う搾乳。今回は搾乳をするときに知っておきたい母乳の搾り方と保存方法、搾った母乳を飲ませるときの注意点についてまとめました。
この記事のもくじ
この記事を監修いただいたのは…
助産師:古谷 真紀(ふるや まき)さん
自治体や企業等と連携した産前産後ケア事業担当を歴任後、妊娠中から産後のママパパ&赤ちゃんのための講座運営や相談事業に従事している。
どんなときに搾乳する?
搾乳とは、出産後のママが直接赤ちゃんに飲ませる代わりに自分で母乳を搾りだすことです。搾乳した母乳を搾母乳と言い、一般的に搾乳した母乳のことを搾乳と言い表すこともあります。
搾乳をするタイミングは、以下の通りです。
- ママと赤ちゃんが入院によって離ればなれのとき→1日6回以上。間隔は日中4時間以内、夜間6時間以内が目安。
- 赤ちゃんを預けるとき→預ける時間の長さによる。乳房が強く張りすぎない間隔で搾乳するのが理想的。
- 乳房に張りがあり赤ちゃんが上手に飲めないとき→授乳の前
- 飲ませた後も母乳が残る感覚があるとき→授乳の後
- 何らかの理由で母乳育児をやめるとき→乳房の張りや痛みを感じたとき
搾乳の方法は?
搾乳の方法には、手による搾乳と搾乳器を使う方法があります。
搾乳する時間は、両胸を合わせて20分程度が目安です。乳房の張りが軽くなったら終了にして、搾りすぎには注意しましょう。
搾乳をするときの姿勢は、前かがみになりすぎないこと、上半身の力を抜くことが大切です。
手による搾乳の方法
手による搾乳は、清潔な哺乳瓶や容器があればいつでも搾ることができ、費用がかかりません。搾乳のコツをつかむまではママの肩こりや手首の痛みの原因になりやすく、慣れるまで時間がかかることがあります。
手による搾乳の手順とポイント
- 搾母乳を受ける清潔な哺乳瓶または容器を準備して、手を洗います。
- 搾乳する手の親指と人差し指が対称となるように、乳輪の境目の近くにそっと添えます。ほかの指と合わせて、乳首を中心にCの字のような形で乳房を支えます。
- 親指と人差し指の腹側が向かい合うように乳輪を挟んで、圧をかけたり緩めたりを繰り返しましょう。圧迫するテンポは1秒間に1〜2回が目安で、胸壁側(肋骨側)に向けて押すのがコツです。力強く押す、ひねるなど痛みを感じるような圧迫はしてはいけません。
- 乳輪の丸い形に合わせて親指と人差し指の当たる位置をずらし、上下・左右・斜めの角度から圧迫を繰り返しましょう。母乳の分泌がゆっくりになったら、もう一方の乳房を搾ります。
搾乳器による搾乳の方法
搾乳器には手動式と電動式があります。
搾乳器を使う場合は心地よい吸引圧で搾乳することが大切です。吸引圧を上げすぎたり、搾乳する時間を伸ばしたりすると、乳房を痛めることがあります。
手動式は電動式よりも安価で、電源がなくても搾乳できますが、手動のため手が疲れることがあります。
電動式は手動式よりも高価ですが、電源があれば搾乳が可能で手が疲れにくいです。片胸を交互に搾乳するシングルポンプと両胸を同時に搾乳するダブルポンプがあります。赤ちゃんが実際におっぱいを吸っている状態に近い圧で搾乳することができます。1か月以上にわたって搾乳が必要な場合は、電動式搾乳器のダブルポンプが便利です。
搾乳器を使った搾乳の手順とポイント
- 搾乳に必要なもの(搾母乳を保管するものや、こぼれた母乳を拭くものなど)を手の届く範囲に準備しておきましょう。清潔な搾乳器を事前に組み立てて、手を洗います。
- リラックスできる背もたれやひじ掛けのある椅子に座り、やや前かがみの姿勢で搾乳口(乳房に当てる部品)の中心に乳首の位置を合わせ、乳房と隙間ができないように押し当てます。
- 搾乳を弱い吸引圧で開始して、乳首の部分が動いていることを確認しながら続けます。手動式では、ハンドルを握ったり緩めたりを繰り返し、母乳が分泌し始めたら吸引圧を調整しましょう。電動式では、心地よい吸引圧やモードに設定しましょう。
搾乳した母乳の保存期間
搾母乳は、常温・冷蔵・冷凍で保存することができます。
主に自宅で過ごしている赤ちゃんのための保存期間は以下の通りです。
常温で保存する場合
常温(25℃未満)で保存する期間の目安は最大4時間です。暑い季節や室温が高い環境で保存する場合は冷蔵で保存しましょう。
冷蔵で保存する場合
冷蔵(4℃以下)で保存する期間の目安は最大3日間です。
冷凍で保存する場合
冷凍(-18℃以下)で保存する期間は3か月程度が目安です。
NICU(新生児集中治療室)やGCU(新生児回復治療室)などに入院中の赤ちゃんが飲む場合、上記より短い保存期間が推奨されています。実際の保存期間は施設によって決められているので、それに従って保存しましょう。
搾母乳を保存するときの注意点
- 市販の母乳専用の袋(例:母乳バッグ、母乳パック)に、赤ちゃんが飲む1回分の量に分けて保存すると、無駄なく使用できて便利です。
- 母乳専用の袋を使用する際は、製品の取扱説明書を読んで正しく使いましょう。
- 先に搾乳した順から使えるように、搾乳した日付と時間(搾乳を開始した時刻)を記載しましょう。
- 家庭用の冷蔵庫は、ドアの開閉によって温度変化が生じることがあるので、ドア付近ではなく、庫内の奥側で保管しましょう。
- 搾母乳をにおいの強い食材(生もの・薬味など)と一緒に保存すると、におい移りが生じることがあります。においの強い食材から遠ざけた位置に保管しましょう
搾母乳を飲ませるときの注意点
- 先に搾乳した順に使い、温めたら1時間以内に赤ちゃんに飲ませましょう。一度温めた後再び冷蔵や冷凍をしてはいけません。
- 母乳の成分が分離した場合は、飲ませる前に優しく振って混ぜてから飲ませましょう。
- 母乳の成分は体温よりも高い温度に弱いため、40℃以上に温まらないように気を付けましょう。直火にかけたり、熱湯や電子レンジを使った解凍や加温は、母乳の成分が壊れるだけでなく、やけどの原因になるので厳禁です。
常温や冷蔵で保存した搾母乳を飲ませるとき
搾母乳の入った哺乳瓶あるいは母乳専用の袋を、ぬるま湯(40℃未満)が入ったボウルなどで湯せんして体温程度に温めてから与えましょう。常温のままを好む赤ちゃんもいれば、体温程度の温かさを好む赤ちゃんもいます。
冷凍で保存した搾母乳を飲ませるとき
飲ませる前に流水に当てる、湯せんする、冷蔵庫に入れる、のいずれかで解凍しましょう。一度解凍した搾母乳を再冷凍してはいけません。
冷蔵庫で解凍した後の搾母乳は室温で最大2時間、冷蔵で最大24時間の保存が可能です。解凍後は冷蔵で保存した搾母乳と同じ方法で、体温程度に温めてから与えましょう。
よくある疑問を解決!搾乳について知っておきたいこと
ここでは搾乳に関するよくある疑問についてまとめて解説します。
搾った母乳やミルクは混ぜてもよい?
搾ったタイミングの異なる搾母乳を混ぜるときは、日時の近いものをそれぞれ同じ温度に近づけてから混ぜましょう。温かい母乳と冷たい母乳を混ぜないでください。
搾母乳と育児用ミルクを混ぜてはいけません。
冷凍した搾母乳を病院へ届けるときの方法は?
市販の保冷バッグや小さめのクーラーボックスの中へ、冷凍した搾母乳と保冷剤を交互に入れて持ち運びましょう。自宅と病院が遠い場合などは、クール便など冷凍配送が可能な施設もあるので確認しましょう。
保育園に入園しても母乳は続けられる?
搾母乳の取り扱いは保育園によって異なります。入園する時期(月齢・年齢)によって、搾母乳を預けるか否かの判断は異なります。母乳育児への対応や預ける際の注意点は、入園予定の保育園へ確認しましょう。
搾乳器の洗浄と消毒の方法は?
搾乳器は哺乳瓶と同じように、製品に合った方法で「洗浄」「消毒」「乾燥」をした後、清潔な場所へ保管しましょう。
搾乳について困ったら専門家へ相談しましょう
母乳の搾り方と保存方法、搾った母乳を飲ませるときの注意点を知っておくと、いざというときに安心です。搾乳について困ったときは、ママや赤ちゃんを診てくれる病院や保健センター、助産院などにいる専門家へ相談してくださいね。
【参考文献】
・母乳育児支援スタンダード第2版 NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 医学書院 2015
・乳腺炎ケアガイドライン2020日本助産師会授乳支援委員会編 日本助産師会出版 2020